私が何かにチャレンジしたいと思った時に常に心に浮かぶ言葉を今日はご紹介したいと思います。
この言葉に出会ったのは私が30代前半の頃です。その頃店主は、ハムソー職人としての修行を始めて間もない頃だったでしょうか。
以前のブログで触れたかもしれませんが、店主は30歳を過ぎてからの脱サラで、将来は自分のハムソー屋を開くためにこれから修行の身になりますと。
いきなりの告白に当時は漠然とした不安を感じながらも、やりたいことをやるのが一番だから応援するしかないと思いました。修行が始まって、忙しそうにしていながらも、以前のサラリーマン時代に比べたら格段に生き生きとした顔をしている彼を見ているうちに、私のなりたいものはなんだろう、やりたいことってなんだろう…とあらためて考えるようになりました。
私は世界の歴史や外国の文化に興味があって、日常会話くらいの英語力は身についていました。仕事で通用するくらいの語学力を身に着けられれば、どこに行っても働けそうです。万に万が一、彼の夢がうまく進まなかった場合でも、私が家計を支えられる…とも思いました。
英語を使うプロの仕事となれば、翻訳や通訳の仕事かな…。半年間アメリカに留学した経験はありましたが、そんなことで翻訳/通訳者としていきなり仕事ができる訳がありません。
そこでまずは翻訳/通訳会社に転職をして業界について知り、その傍らで翻訳学校に通ってプロになるべく勉強をする、という生活を始めました。
そこで気づくのです。いや、これは難しいぞ… 簡単じゃないと思っていたけどそもそも自分にはそんなセンスがないんじゃないのか… 帰国子女でもないし、大学で英語を専攻したわけでもないし、30代で勉強を始めるなんて遅すぎるんじゃないか…。
目の前の高い氷山を自分は登れるのだろうか… そんな気持ちになりながら、ある企業で働いている翻訳者の方に書類を届けに行った日のことです。
初めてお会いするその方に、最近入社した者なのでご指導よろしくお願いいたします、と自己紹介をしました。とても優しい方で、異業種から翻訳会社に転職したということは、翻訳や通訳者を目指しているのですか?と聞かれました。確かにそういう人が多いのです。
「はい、まだ勉強を始めたばかりで、いつか翻訳者になれたらいいなぁと思ってはいますが…。」
と苦笑いしながら答えると、この言葉を教えてくれました。
いつかなれたらいいなぁ… と言い続けているだけの人を "Forever wannabe(フォーエバー・ワナビー)" って言うんですよ。「いつか」ではなく「いつまでに」を自分で決めて、そこに向かって努力をすれば必ず道は開けますから、応援していますね。
"wannabe" という単語を検索すると、以下の説明がヒットしました:
a person who is trying to become famous, usually unsuccessfully.
(有名になりたいと思っている人のこと、大概そうはならない)
参照『The Cambridge Advanced Learner's Dictionary & Thesaurus』
何者かになりたいとあこがれ続けているけど結局なれない人、そんな否定的なニュアンスが wannabe には含まれているようです。
「あんな風になりたいなぁ」「こんなことができたらすごいよなぁ」「やってみたいけど自分には無理なんじゃないかなぁ」
こんな風に思うことって、日常の中でよくありませんか?
憧れるけど自分にできるかどうか分からない。なんならできない/やらない理由を探して、行動しない自分を正当化してしまう…
そんな人はきっと "Forever wannabe" なんだと思います。
その翻訳者の方に、笑顔で確信に満ちた口調でそう言われたときに、すべては自分次第なんだって思いました。自分で選んだ道だから後悔したくない。未来の自分から「なんであの時に頑張らなかったんだ」って責められるような今を過ごしたくないって、そう思ったんです。
それ以来、"Don't be a forever wannabe(フォーエバー・ワナビーにはならない)” は私の金言になっています。
翻訳&通訳の勉強はその後ずっと継続し、最終的には企業内通訳の仕事をいただけるまでになりました。もちろん上には上があり、勉強に終わりはなく、いつになっても自分の能力に満足することは決してありませんでした。
一方で、諦めないで続けていたからこそ訪れたたくさんの貴重な出会いや経験を得ることができました。そのご縁は私がハム屋の女将となった今もありがたいことに途切れず、振り返ってもその時に頑張っていた自分を労いたい気持ちになります。
そんな金言に背中を押されてここまできました。チャレンジしたいと思ったことにはできない理由ではなくできる条件を探して実現していく気概が身についたように思います。
ということで、話が長くなりましたが、先日のフルマラソン初チャレンジにつながります。
前回のブログでも触れた大学時代の友人が、フルマラソンやトレイルランニングなどで走っている様子を聞いていました。同い年の女性が42.195kmを4時間弱で走る。70㎞に及ぶ伊豆の山中を夜通し走っている…。尋常ではないな、という第一印象とともに、こんなすごいことが本当にできるのか??と、畏敬の念を抱きました。
少しでもそんなことができたら…、夢のような場所に立つことができたら…。人生折り返し地点を過ぎた自分がワクワクソワソワしてしまうことに出会ってしまったら、"Don't be a forever wannabe."
やるしかないですよね。達成できるかどうか分からなくても、一歩を踏み出せば絶対後悔はしない。
こんな私を見て、店主は「やりたいことをやり遂げるあなたのしつこさはすごい」と言ってくれたことがあります。皮肉に聞こえますが、誉め言葉のようです。
でも、やり遂げたのは店主の方。
高校卒業後、工業系の大学へ進学したのですが、中退して農業短期大学に入り直し畜産を学びました。
私たちが大学を卒業する頃は、バブルがはじけた就職氷河期の始まり。中堅ハムメーカーの面接を受けたものの不採用となり、食肉加工とは無関係の仕事に就いてそこから約10年。突然丸坊主にしてきたと思ったら、ハム職人として修行をしたいと。
そこから20年弱の月日が経ちました。アインベルクは開店から8年目。仙台の手造りハム・ソーセージの専門店としてまぁまぁ知られるようになってきたかな?
数年前、ある雑誌の取材に店主が答えていたのを聞いて知ったこと。
「なぜハム・ソーセージの店を開こうと思ったのか?」
「子どものころ、祖母の家に行くたびに食べさせてもらったソーセージが美味しくて忘れられなかった。大好きなソーセージを自分で作ることができればいいんじゃないかと思ったんです」と。
随分長いこと店主は "wannabe" だったみたいです。
でもただのワナビーではなくて、その思いを忘れずにいて、チャンスが来た時にそれに飛びつき、自らの努力でもってそれを実現したんだと思います。
そうやって頑張る人には自然と周りが応援するもので、一応一番近くにいた私もそんな彼を応援したいと思った一人なのです。
だから私も、自分がやってみたいと思ったことはやってみたい。努力を惜しまず、言い訳をせずに、自分が納得するまでやってみたい。なりたいと思ったものにもしなれないとしても、努力した時間は絶対に自分を裏切らないと、これまでの経験が背中を押してくれるのです。
Don't be a forever wannabe.
この言葉が、憧れを単なる憧れに終わらせたくないと思っているどなたかに届けばいいなと思います。