アインベルクの冬の味、白カビのサラミ“ブラン”。
白カビは、カマンベールチーズのほわっとした白いカビと同種です。このカビの力でお肉がゆっくり熟成されていき、芳醇な香りのサラミに仕上がります。
熟成のプロセスが違う”スモークサラミ”と食べ比べるのも楽しみの一つ。
なぜ通年で製造していないかというと、オートマティックな熟成庫がないから。ほぼ自然環境下で店主が手造りしています。
この場合、白カビがきれいに育つ上で重要になるのが、温度と湿度。梅雨時期や夏の高温多湿の時期はNGです。違う色のカビが育ってしまいます…。
白カビたちが快適な環境でお肉の熟成を進めるためには、ほどよく気温が低く乾燥している状態が必要です。秋の終わり頃から本格的に暖かくなる手前くらいまでの時期がサラミの製造に適した期間になります。
自然環境…といってただ放置しているのかというとそうではありません。赤ちゃんのお世話をするように、温湿度管理を中心に、毎日あれやこれや丁寧に面倒を見てあげています。
そうした甲斐あって、11月下旬に仕上がった今シーズン初回ロットは美しい出来映えでした。
『雪の女王』と呼びたくなってしまうような真っ白な出で立ちです。
その表皮とは対称的に内側はきれいな赤身を帯びています。ややねっとりとした食感と鼻に抜ける熟成香。
グリーンペッパーのピリッとした辛みが全体を引き締める、美味しい赤ワインとともに楽しみたい特別な味わいです。
想定より早く昨年末に完売となってしまい、しばらく欠品が続いていたブラン。
数週間前から次のロットを仕込み始め、ようやく熟成段階に入ったのも束の間、先週10年に一度という触れ込みの大寒波が来てしまいました。
いやいや、寒い!雪が降るだけではなくて、近年にはない極度の低温の日々が続いています。
この寒さに身を縮めていたのは人間だけではなかったようで、工房の白カビたちは寒すぎて成長を止めてしまったようなのです…。カビのつきが思わしくありません。
店主が必死に温めたり加湿したりと環境を良くしようと頑張っているのですが、今回の極度の低温乾燥にはなかなか太刀打ちできないようです。
開店から6回目の冬を迎え、毎年白カビのサラミを作ってきた中で、今回のような事態は初めてみたいです。
せっかくここまで来たのでなんとか白カビが育ってくれることを期待したいのですが、あと数日様子を見て判断をしなければいけない、とのことです。
手塩にかけてきた日々を考えると、店主の心中を察するばかりです…。
今や白カビをまとったサラミは輸入食材店にも並び、手軽に味わうことができようになりました。
アインベルクのサラミはそうした輸入物にはない手造りの温かみを感じていただけると思います。
気候に左右されてしまう不安定さは否めませんが、一期一会の冬の味として、美味しくできた暁には皆さまに楽しんでいただけたらと思います。
どうぞ皆さま暖かくして、気長にブランの完成をお待ちいただけたら嬉しいです。