娘の学校が再開し、アインベルクはいつもの日常に戻りました。
晴れた空を見上げると、薄くたなびく羽衣のような雲。乾いた心地いい風に秋の気配を感じます。
夏が終わってしまう前に、前回の小旅行とは別の、今夏のハイライトをブログに記しておこうと思います。
ちょうど仙台では七夕まつりが行われていた8月初旬、茨城県にある「ハンス・ホールベック」(以下「ハンス」)を家族三人で訪れました。知る人ぞ知る、ドイツ製法手造りハム・ソーセージの名店です。
このお店こそ、30歳を過ぎた店主が脱サラしてハムソー職人の道を歩み始めた修行の場、原点なのです。
ハンスのシェフ小島豊氏は、70年代に渡独しハム・ソーセージ作りの修行を極め、帰国後はドイツソーセージ技術の普及に多大なる貢献をなさっているドイツ食肉マイスターです。
ハンスには常に複数の職人の方々が働き腕を磨いていらっしゃいましたが、この夏、最後の職人の方々が卒業なさったそうで、これを一つの区切りに一旦お店を休業することにしたそうです。
とはいえ、夏の繁忙期、以前からのご予約への対応や、長年の常連のお客さまへの不定期販売会の実施などのため、シェフ自ら製品を製造すると、奥さま(マダム)からご連絡をいただきました。
これを聞いた時の店主の反応ときたら!
店主がハンスを卒業してから早12年の月日が経ちます。その後は自らのハムソー街道を進み続け、5年前には故郷に錦を飾る「アインベルク」の開業を果たし、休みもそこそこに働き続けておりました。
その間一度もハンスを訪れる機会はありませんでした。
アインベルクも夏の繁忙期真っ只中です。でも、御年70歳を超えたシェフが自ら腕を振るっていることを知り、「何か自分でもできることがあるかもしれない」と最初で最後の恩返しの機会とばかりに、ハンスに押しかけお手伝いに行くことを決めてしまいました。
その日にちを確保するために、モーレツな勢いで仕事をこなす店主。これはもう家族で行くしかない。私も素人なりに何かお手伝いができるかもしれないし、娘にも父親の原点を見せてあげたい。
そんなこんなでハンスのシェフとマダムにも快く受け入れていただき、12年ぶりのハンス訪問が実現しました。
仙台から高速で約3時間半。到着した利根川沿いの地は東北とは違う真夏の暑さ。10年以上も経つと、あちこち町並みが変わっています。
でも、懐かしいこの建物は変わっていませんでした。
ドイツから建築資材と3名の建築職人を日本に呼び寄せ建てたというこの店舗。内装もドイツの雰囲気満点ですが、外観だけでも心躍る気持ちになります。
ご挨拶と近況報告の後、店主は早速シェフの隣で作業を始めました。
12年ぶりにハンスの作業着に袖を通し、懐かしい工房に立つ店主。嬉しそうです!
約20年前の冬のある日、まだサラリーマンだった店主が、突然坊主頭になって帰ってきました。
「なんか急にさっぱりしたくなってさ」という店主。確か12月のめちゃ寒い時期でした。
坊主頭の理由を知ったのは、その後「ハム屋の職人募集の面接に受かったので転職します」と告げられた時でした。31歳での大転身。気合と覚悟の表れだったのですね。
マイスターから一から手ほどきを受けた修業時代。その後独歩の10年強。教えの恩を返すというのは大げさですが、少しでも成長を見ていただける場になっているのだろうなと思うと、なんだか自分のことのように熱い気持ちがこみ上げてきます…😢
写真を撮らせていただいた時のシェフの笑顔が優しかった…。
で、私と娘はというと、結局何のお役にも立てなかったどころか、マダムのご厚意でチャイナペインティングを体験させていただくことになったのです。
白磁に絵付けをする西洋の伝統工芸であるチャイナペインティング。マダムはコロナ前までは教室を主宰していらっしゃったプロのペインターです。
ビアレストランを併設するハンスで使われる食器は、マダムが絵付けした優雅なお皿ばかり。
アインベルク開店時には、オンリーワンの作品を私たちのために描いてくださいました。
(ご来店の際に、レジを打つスタッフの後方頭上に飾ってあるお皿を探してみてくださいね)
絵を描くのが大好きな娘は、初チャイナペインティングにも関わらず堂々たる筆遣い。
頭に浮かんだ絵をそのまま再現できる娘の才能に、あらためて感心です。
「せっかくだからやってみて」と絵心&感性ゼロの私にも勧めていただきまして…。
マダムが開いてくださった分厚いドイツ語の食肉加工辞典にアーティスティックに描かれた豚の部位を丸写しさせていただきました…。
アートって、才能必要ですよね…😓
お昼ご飯には、ハンスのまかないカレーライスに、出来たてほやほやの腸詰めをいただきました!幸せ♡
ほぼ遊びに行ってしまったような私と娘は一足先に仙台に戻ったのですが、店主は2日間、シェフの手伝いをする中で、新たな知識や気づきを得て、非常に充実した時間になったようです。
実際に、店に戻った後すぐに作った粗挽きの腸詰めは今まででトップレベルの出来映えとの自己評価。シェフのちょっとしたカッター使いのテクニックを参考にしたそうです。
今回のハンス訪問が、この夏の繁忙期を乗り切る大きな原動力になったのは確かです。
シェフとマダムの顔が店主の心に浮かび、気を引き締めて製造に当たる日々がしばらくは続くのではないでしょうか。
貴重な機会を与えてくださったハンス・ホールベックのシェフとマダムに、心から感謝したいと思います。
遠くない未来に、再訪の機会がありますように…。